最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)929号 判決 1948年12月24日
主文
本件上告を棄却する。
理由
辯護人田所和十郎及び千島勳の上告趣意は末尾添附別紙記載のごとくであって、これに對する當裁判所の判斷は次のとおりである。
同上告趣意第一點について。
原判決の認定したところに從えば、被告人は、判示の米五俵が占有を離れた他人の物であることを認識しながら、不法にこれを領得しようと決意して、自宅の藏の内に匿い込んだというのであるから、これはまさしく刑法第二五四條の横領罪に該當する。假りに所論のように、被告人が右の米の盗品であることを認識していたとしても、不法領得の意思を以て之れを拾得した以上、同條所定の横領罪が成立するのであって所論のように賍物收受罪が成立するのではない。それ故に本件を以て賍物收受罪に該當するものとする論旨は、理由がない。のみならず刑法第二五六條第一項所定の賍物收受の罪は、同法第二五四條の占有離脱物横領の罪より重いのであるから、論旨は被告人の不利益を主張することゝなり、この點に於ても採用することができない。
同第三點について。
論旨は、浦和地方檢察廳熊谷支部に於て事務官小林政一作成に係る聽取書に供述者の署名捺印がないことを非難しているが、原判決は右の聽取書を證據として採用していない。從って假りにそれが違法であったとしても、そのことは原判決に影響なきこと明白であるから、刑事訴訟法第四一一條によって、これを上告の理由とすることはできない。論旨は理由がない。
同第四點について。
記録を調べてみると、昭和二二年一一月六日の原審の決定にもとずき、受命判事堀真道及び同堀内節の両名は、同月二二日、深谷警察において檢事、被告人及びその辯護人等立會の下に、關口マツ外一〇名の證人を訊問した。そうしてその一一名の證人の中、證人關口マツ、同茂木幸三郎及び同高梨浪一の證言については、被告人に意見辯解の有無を問い、又は被告人に證人を訊問する機會を與えた形跡のないこと、所論の通りである。しかしこのことが假りに違法であったとしても、右の各證言は何れも原審に於て證據として採用せられていないのであって、原判決に影響を及ぼしていないこと明白であるから、その點に於ても論旨は理由がない。
(その他の判決理由は省略する。)
以上の理由により刑事訴訟法第四四六條により主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)